浜松駅南口を出て、歩いてわずか1分。地元のお客様から遠くの観光客、出張中のビジネスパーソンまで、毎日多くの人が美味しいうなぎを求めて足を運ぶ直営店「浜名湖うなぎ 丸浜」。その厨房の奥で、香ばしい煙に包まれながら、真剣なまなざしでうなぎと向き合っているのが、I.さんです。
入社8年目を迎えるI.さんは、うなぎの「焼き」という職人技を日々みがいています。さらにホールでの接客もこなし、店全体を力強く支える中心スタッフとして活躍しています。けれど前の仕事は、飲食や水産業とはまったく関係のない「スーツ屋のアルバイト」でした。なぜあえて、厳しいイメージのある「うなぎ職人」の世界へ飛び込んだのか。未経験からどのように確かな技術を身につけ、いまの立場を築いたのか。I.さんを動かし続ける「とても強いうなぎへの愛」、飲食業界の常識をくつがえす丸浜の働きやすさ、そして地域の食文化の最前線を支える誇りについて、たっぷりと語ります。
第1章 あふれる「うなぎ愛」と異業種からの挑戦
I.さんの経歴は、飲食業とはまったく違う「スーツ屋のアルバイト」から始まりました。そこからうなぎ専門店で働き始めた理由は、とてもシンプルで素直なものです。
「私自身、とにかくうなぎが大好きだったんです」
幼いころから祖父母とうなぎを食べる機会が多く、家族で静岡県内のうなぎ専門店を何店舗もめぐるほどでした。うなぎはI.さんにとって身近で、同時に特別な食べ物だったのです。その思いは、やがて一つの決意に育っていきます。
「大好きな静岡の食文化、とくに浜名湖のうなぎを、もっと世の中に広めたい。そのために自分も何か役に立ちたいという強い思いが芽生えて、思い切って転職を決めました」
養殖や加工、事務など、うなぎに関わる仕事はたくさんあります。そのなかでI.さんが選んだのは「料理」の道。つまり、お客様に最も近い店舗の現場でした。
「料理を出す側として、お客様の『美味しかったよ』という言葉を直接聞けたり、喜ぶ顔を間近で見られたりすること。それが自分の仕事のやりがいになると感じたからです」
大好きなうなぎを自分の手で調理し、直接お客様へ届ける。その喜びにひかれて、職人としての新しい挑戦が始まりました。
第2章 火傷を乗り越え掴んだ「職人の手」
うなぎ職人の世界には「串打ち三年、割き八年、焼き一生」という言葉があります。串打ち(うなぎに串を刺す作業)も、割き(うなぎをさばく作業)も、焼きも、技術を身につけるには長い時間と努力がかかるという意味です。丸浜に入社したI.さんも、最初はご飯盛りやタレかけ、洗い物といった基本の仕事から始めました。そして少しずつ、厨房の動きや店の流れを体に覚え込ませていきました。
そして、うなぎの味を決める「焼き」の工程を学ぶ段階に入ったとき、I.さんを待っていたのは、想像以上の大変さでした。
「焼きをやるとき、どうしても串が熱くなるんです。最初は熱さに耐えきれず、何度も火傷をしてしまいました。その熱さに慣れるまでが本当に時間がかかって、大変でしたね」
それでも、I.さんはあきらめませんでした。毎日のように火と煙に向き合い、熱い串を握り続けるうちに、ある日ふと、自分自身の変化に気づいたと言います。
「普段、熱いものを持ったときに、あまり『熱い』と感じなくなった瞬間があったんです。そのとき初めて、『ああ、自分も一人前になれたんだな』と実感しました」
火傷をくり返し、少しずつ皮が厚くなり、熱に動じなくなった両手は、まさに「職人の手」そのものでした。「焼き」をしっかり任されるようになるまでにかかった期間は、少なくとも半年。日々まじめに向き合った結果、いまでは責任者から確かな技術を認められています。求人票にも書かれている「技能手当(最大10,000円)」をもらえるまでの実力を身につけました。
第3章 「見て盗め」ではない、丁寧に寄り添う教育体制
職人の世界といえば、「先輩の背中を見て技を盗め」という、厳しく突き放すような教え方が当たり前だと思われがちです。未経験から飛び込んだI.さんも、最初はそんな不安を抱えていたかもしれません。しかし、丸浜の教え方はまったく違っていました。
「社員の先輩が、串を刺すところから一つひとつ丁寧に説明してくれました。先輩の隣について、まずはそこから始めさせてもらえたんです。言葉でしっかり説明してもらい、最後まで教えてもらえる環境だったので、それがとても心強かったですね」
言葉で筋道立てて説明し、手取り足取り教える。そんな温かく、何でも話しやすい職場だったからこそ、別の業種から来たI.さんも、くじけることなく着実に技術を身につけられたのです。
丸浜の魅力は、教え方だけではありません。「漁協の直営店」という強い後ろ盾があります。だからこそ、お客様にはいつも安全で安心なうなぎを、手頃な価格で出せるという確かな自信を持って働けます。
そして、飲食業界でありながら、働く環境がとてもよく整っている点も見逃せません。シフト制で勤務時間がしっかり管理され、月平均の残業時間はわずか2時間ほど。求人票に書かれているとおり、基本給に加えて月額20,000円の労務手当がもらえ、月給は215,000円〜230,000円という安定した水準です。さらに、休まず出勤すれば3,000円の精勤手当ももらえます。まじめにコツコツ取り組む姿勢が、しっかりお金として評価される仕組みが整っているのです。自分の時間を十分に取りながら、一生モノの技術を身につけられる。長時間労働になりやすい飲食業界では、これはとても珍しく恵まれた環境です。
第4章 お客様の笑顔と「でしこ」の反響
浜松駅の目の前という便利な場所にある丸浜には、地元のお客様だけでなく、全国各地から観光客や出張のお客様がたくさん訪れます。とくにゴールデンウィークやお盆、年末年始といった忙しい時期には、お客様が一気に押し寄せます。
「そうした時期は、たくさんのお客様を大勢のスタッフで接客しなければならず、本当に目が回るような忙しさです。一番大変な時期ですが、職場の仲間たちとおたがいに協力し合って乗り切っています」
目の回るような日々のなかで、I.さんの心をいやし、やる気を高めてくれるのは、やはりお客様との温かいやり取りです。
「イベントのグッズを鞄につけている方や、違う地方の方言を話される方とお話をすると、『ああ、わざわざ浜松まで観光に来てくれたんだな』と実感します」
美味しい食事を出すだけでなく、お客様の思い出づくりにも役立てている。その手応えが、I.さんを笑顔にします。
さらに最近では、店舗で嬉しい変化も起きています。浜名湖養魚漁協が会社の命運をかけて立ち上げ、いろいろなメディアでも話題になっている新ブランドうなぎ「でしこ」です。
「最近、『でしこ』という新しいブランドが世の中に広まってきたなと肌で感じています。実際にお客様から『でしこ』の名前を聞く機会がすごく増えました。組合全体でアピールしてくれたおかげで、現場に立つ私たちも、その反響の大きさを誇らしく感じています」
自分が出しているものが、確かに世の中に届いている。最前線の現場だからこそ味わえる大きなやりがいが、そこにはあります。
第5章 浜名湖の食文化を全国へ——未来の仲間へ
インタビューの最後に、これから丸浜で働いてみたいと考えている方へ向けて、I.さんからの、熱いメッセージです。
「どんな人がこの仕事に向いているかといえば、まずは『うなぎが好きな方』、そして『お客様と話すのが好きな方』ですね。丸浜には観光で来られるお客様がたくさんいらっしゃいます。そうした方々と少しでも言葉を交わし、『また来てよかったな』と思っていただけるような接客ができる方と、一緒に働きたいです」
未経験からでも、うなぎを愛する気持ちと、お客様に喜んでほしいという素直な思いがあれば、必ず立派な職人に成長できます。丸浜には、それを全力で支える先輩たちと、最高の環境が整っています。
「私のこれからの目標は、浜名湖という地域に根づいた食文化であるうなぎを、一人でも多くの人に知ってもらえるよう、さらに広めていくことです」
スーツ屋のアルバイトから思い切って挑戦し、何度もの火傷を乗り越えて、確かな「職人の技術」を手に入れたI.さん。I.さんの焼く香ばしいうなぎの香りと、お客様を優しく包み込む温かい笑顔は、今日も浜松駅前で、浜名湖の伝統と誇りを全国の人々へと力強く伝え続けています。