R.さん(養鰻担当(丸浜入七養鰻場))
People 若手の挑戦

「命と向き合い、目に見える成果を実感。シフト制で自分の時間も大切にできる仕事」

養鰻担当(丸浜入七養鰻場) / R.さん(18歳・入社3年目)

養鰻担当(丸浜入七養鰻場)の現場

浜名湖は、日本でうなぎの養殖(うなぎを育てる仕事)が始まった場所として、125年以上の誇り高い歴史を刻んできました。その伝統を受け継ぎながら、近年では新ブランドうなぎ「でしこ」の生産拠点として、全国の食通やメディアから熱い視線を集めているのが浜名湖養魚漁業協同組合です。活気あふれる養殖現場「丸浜入七養鰻場」に、ひときわ若く、そして泥くさくひたむきに命と向き合う職人がいます。入社3年目を迎えた18歳のR.さんです。

R.さんは、同じ組合で働く母の縁をきっかけに入社した、組合では珍しい「親子で同じ職場」の若手職人です。中学を卒業した後、わずか15歳でこの厳しい水産の世界に飛び込みました。「うなぎの世話をするだけかと思ったら、草刈りや設備の修理など、意外な仕事ばかりで驚いた」と無邪気に笑う若者。彼はどのようにしてこの仕事にやりがいを見つけ、命の尊さを学び、職人として成長を続けているのでしょうか。シフト制を活かして趣味のイベントを楽しむ、今の若者らしい姿。そして、浜名湖うなぎの未来を担う頼もしい職人としての横顔。その両方に迫りました。

第1章 母の縁と恩師の導き。15歳で選んだ「うなぎを育てる」という未知なる道

R.さんが丸浜入七養鰻場の門を叩いたのは、中学を卒業したばかりの15歳の春でした。多くの同世代が高校に進学するなか、彼は自立して社会に出るという道を選びます。

「中卒で進路に迷っていた時期があったんです。その時、たまたま中学校の担任の先生が池(養鰻場)の関係者だったという、偶然のご縁がありました。さらに、母(S.さん)もちょうどこの組合の直営店『丸浜』でパートとして働いていました。そのつながりでいろいろと助けていただき、入社することになりました」。

家族や恩師の温かいサポートに背中を押されて飛び込んだ養鰻の世界。入社前に抱いていた仕事のイメージは、「ただうなぎと触れ合い、エサをあげるだけの仕事」というシンプルなものでした。ところが、現場は想像とは大きく違っていたといいます。

「いざ働き始めてみると、うなぎと直接関わる時間よりも、池の設備を直したり、ハウスで草刈りをしたりする時間のほうがずっと多かったんです。泥くさくて体を張る仕事ばかりでした。うなぎを育てる環境そのものをつくる、設備の管理も含めた総合的な仕事なんだと知りました」。

最初は戸惑いもあったというR.さんですが、すぐにその「環境づくり」の面白さに目覚めていきます。「うなぎだけでなく、施設全体に触れられることが、かえって楽しいと感じるようになりました」。当時の新鮮な驚きを、彼は生き生きと語ってくれました。

第2章 透明な稚魚が、浜名湖が誇る青手うなぎになるまで。目に見える成長の喜び

丸浜入七養鰻場でのR.さんの一日は、朝が早く、とても規則的です。

「基本的には朝6時半に出勤します。まずは池全体を見て回り、うなぎの様子を確認してから、最初のエサやりをします。午前中は『沈殿槽』と呼ばれる、池のゴミがたまる場所の掃除や、施設内の草刈り、壊れた水車の修理などをこなします。お昼休憩をはさんで、午後もその続きの作業をします。そして夕方にまた池を見てエサをあげる。これが基本的な一日の流れです」。

特にきついのは、夏のハウス内での作業です。「夏場のハウスの中は気温が40度近くになることもあって、いるだけでクラクラするほどです。でも、汗だくになりながら草刈りをして、終わった後に現場がピカピカにきれいになっているのを見ると、とても気持ちが良くて達成感があります。草刈りの作業は、個人的に一番好きかもしれません」。

そんな彼が、毎日の仕事のなかで一番のやりがいを感じるのは、うなぎの「目に見える成長」を実感した瞬間だといいます。

「一番のやりがいは、本当に小さな稚魚の時から池に入れて、出荷サイズになるまでを自分の目で見届けられることです。最初は体が透明だった稚魚が、成長して出荷する頃にはきれいな黒色になり、少し青みがかったような立派な姿に変わっていきます。サイズも色も目に見えて変わっていくので、『ああ、自分が育てたんだな』とはっきり実感できる。それが、この仕事ならではの楽しさであり、良さだと思います」。

第3章 「死鰻」の回収で感じる、命の重みと職人の現場

うなぎの養殖は、生き物を相手にする仕事です。喜びばかりではなく、時には命の厳しさとも向き合わなければなりません。R.さんが「命と向き合っている」と一番強く実感するのは、意外な瞬間でした。

「自分は、『死鰻(しもん)』と呼ばれる、死んでしまったうなぎを回収する時に、一番、命と向き合っているなと感じます。無事に育って出荷されていくうなぎは『商品』として見ることができます。でも、死鰻の時は、まだ商品になっていない、ただ生きていたうなぎとしての姿です。だからこそ、その命を回収する瞬間が、生き物を扱っているという重みを感じる時ですね」。

体力的に一番きついのは「出荷(池替え)」の作業だといいます。「出荷の時は、カゴの中にうなぎを30kg分も入れて、分けたり運んだりするんですが、それが本当に重くて大変です。しかも、出荷の規格に合わせて正確に33kgに調整しなければなりません。少しでもズレると、またやり直しになります。力仕事と細かい調整の両方が求められる、きつい作業です」。

こうした厳しい現場で、15歳だったR.さんはどのように技術を身につけてきたのでしょうか。「職人の世界なので、最初は先輩の作業を見て覚える部分も多かったです。でも、分からないことを自分からちゃんと聞けば、先輩たちはとても丁寧に一から教えてくれました。そのおかげで、入社した頃に比べれば自分でもだいぶ上達して、マシになったんじゃないかなと思っています」。少し照れくさそうに、けれど確かな自信をのぞかせて、R.さんは語りました。

第4章 テレビに映る自分の仕事。同世代に伝えたい「成果が見えるかっこよさ」

18歳といえば、多くの同世代がまだ高校生活を送り、これからの進路に悩んでいる時期です。そんななか、すでに社会に出て3年目の経験を積むR.さん。地元の友達からは「どんな仕事をしてるの?」と聞かれることも多いそうです。

「『漁協でうなぎ育ててるよ』って答えると、みんなから『珍しいね!』って言われます(笑)。特に深く突っ込まれることはないですが、珍しい仕事をしているという自覚はあります」。

同世代に向けて、この仕事の魅力や「かっこよさ」を伝えるとしたら何でしょうか。そう問いかけると、力強い答えが返ってきました。

「やっぱり、自分のやった仕事の成果が『目に見える』ことですね。自分たちが育てたうなぎが、浜松駅の直営店で実際に売られているのを見たり、テレビの特集で紹介されて映ったりする。それを見ると、他の仕事にはない大きさを感じます。自分の仕事の結果を、社会のなかではっきりと見ることができる。それはすごく『かっこいい』ことなんじゃないかなと思います」。

仕事の充実感に加えて、プライベートとの両立がしやすいことも組合の大きな魅力です。「養鰻の仕事はシフト制なので、実は休みがすごく取りやすいんです。土日以外でも平日に休みを取れるので、たとえば平日に行きたいイベントがある時などは、シフトを調整して参加できたりします。自分の時間を大切にしながら働けるので、平日にも出かけたい人にはとても良い環境だと思います」。

第5章 小さな変化に気づける職人へ。「でしこ」と共に描く未来

組合は今、125年の歴史の結晶とも言える新ブランドうなぎ「でしこ」を立ち上げ、全国に向けて大きく展開しています。Makuakeのクラウドファンディング(ネットで応援のお金を集める仕組み)ではうなぎ部門で日本一の支援額を記録し、グッドデザイン賞まで受賞しました。「でしこ」は、まさに浜名湖の未来を背負う存在です。R.さんも、この新ブランドの活躍に大きな夢を抱いています。

「ちょうど『でしこ』という新しいブランドができて盛り上がっているので、これからもっとこの名前が有名になって、世の中の人が『うなぎといえば、でしこだよね』と言ってくれるようになったら最高だなと思っています」。

大きな夢を語る一方で、自分の職人としての目標については、とても謙虚で現実的です。「自分はまだ、うなぎの小さな変化に気づくのがあまり得意ではなくて、見落としてしまうことがあります。生き物相手だからこそ、毎日の小さな変化にしっかり気づける職人になっていきたいです」。

インタビューの最後に「ちなみに、ご自身はうなぎを食べるのは好きですか?」と尋ねると、「いや、実は脂がすごすぎて自分はあまり食べられないんです(笑)」と、18歳らしい正直でかわいらしい本音もこぼしてくれました。

15歳で未知の世界に飛び込み、きついハウスでの作業や命の重みと向き合いながら、立派な職人へと成長を続けるR.さん。最後に、これから仲間になるかもしれない人へのメッセージを聞きました。

「これから入社してくる人にも、『うなぎが少し大きくなったな』といった小さな変化に気づけて、成長を実感して楽しめる人が向いていると思います。最初は分からないことだらけでも、自分からちゃんと聞けば先輩が丁寧に教えてくれます。自分が育てたうなぎが直営店に並び、テレビに映る。そんな目に見える成果を、一緒に味わってみませんか」。彼が泥まみれになりながら愛情を込めて育てた「でしこ」は、今日も浜名湖から全国の食卓へ、とびきりの幸福を届け続けています。

養鰻担当(丸浜入七養鰻場)の現場
現場の風景
養鰻担当(丸浜入七養鰻場)の現場
養鰻担当(丸浜入七養鰻場)の現場

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