浜名湖は、日本でうなぎの養殖(うなぎを育てる仕事)が始まった場所です。その歴史は125年以上にもなります。この伝統を絶やさないよう、組合は生産者とともに歩んできました。近年では新ブランドうなぎ「でしこ」を立ち上げたり、組合として「浜プラン」(建物の建て替えに合わせて、うなぎの観光スポットをつくる計画)を進めたりしています。こうして次々と新しい挑戦をしているのが、浜名湖養魚漁業協同組合です。
組合で働いて約30年。現場と経営の両方の最前線に立ち、いま組合全体の仕事を指揮するのが、統括本部長の小川です。組合の仕事は、シラスウナギ(うなぎの赤ちゃん)の買い付けから、養殖、選別(大きさや質ごとに分けること)、加工、直営店での販売まで全部にわたります。これを「六次産業化」(育てて、加工して、売るまで全部やること)と言います。かつて最盛期には400軒以上あった養鰻家(うなぎを育てる農家)が、いまは27軒にまで減ってしまいました。この「産地が消えてしまう危機」に、組合はどう立ち向かうのでしょうか。
「働く人が幸せでなければ、会社としても幸せではないし、伝統を守っていくこともできない」。そう語る統括本部長の小川が、一般の会社とは違う「協同組合」ならではの使命を語ります。そして、人が辞めずに長く働き続ける温かい雰囲気や、未来の仲間とともに描く「浜名湖うなぎの次の100年」についても話してくれました。
第1章 シラスウナギから食卓まで。すべてを網羅する「六次産業化」のスケール
浜名湖養魚漁業協同組合の仕事は、ふつうの水産会社の枠をはるかに超えています。小川統括本部長は、販売部、加工課、直売、購買課、養鰻というすべての部門をまとめています。この大きな組織をうまく動かす、重い責任を担っているのです。本人は、この幅広い仕事の全体像を「うなぎの入り口から出口まで」と表現します。
「組合の仕事は、うなぎ養殖の始まりである『シラスウナギ』を買い付けて、各組合員に販売するところからスタートします。そこから、自分たちの養鰻事業部でもうなぎを育てます。育って出荷された活鰻(生きたうなぎ)を販売部が選別し、全国のお客様にお届けします。さらに、組合員から届いたうなぎを自分たちの加工場で加工し、ネット通販や百貨店のギフトとして全国の皆さんにお届けするのが加工事業です。そして最後の出口として、浜松駅の近くにある直営3店舗で、お客様に直接食べていただいています」
生産(一次産業)、加工(二次産業)、流通・販売(三次産業)。このすべてを一つの組織でまとめて手がける、究極の「六次産業化」がここにはあります。
ただし、この組合は、利益を追う一般の会社とは成り立ちそのものが違います。
「組合というのは、もともと生産者(組合員)がつくっている組織です。一般の会社のようにただ利益を追うのではなく、『生産者のためになることをする』のが一番の使命です。とはいえ、組合自身がしっかり経営を成り立たせないと、最終的には組合員に迷惑をかけてしまいます。組合員のことを考えつつ、会社としてもきちんと利益を出して自立する。このバランスを取るのが、ここで働くうえでの難しさであり、大きなやりがいでもあります」
第2章 株主から「対等なパートナー」へ。風通しの良さが生む圧倒的な定着率
組織の成り立ちから、職員と組合員(生産者)の関係は、歴史とともに大きく変わってきました。
「簡単に言えば、組合員が『株主様』で、私たち職員は会社勤めの社員、という関係です。私が入社した頃は、組合員の方がずっと立場が強く、職員は下に見られるような空気がありました」
しかし時代は変わり、浜名湖の養鰻を取り巻く環境も変わりました。
「いまは組合員の数も減り、世代交代も進みました。立場は違っても、『浜名湖うなぎを発展させる』という目指すゴールは同じです。だから、今では対等なパートナーという関係になりました。お互いに意見を出し合うことも増え、とても風通しの良い関係が築けています」
この風通しの良さは、職員同士の関係にも深く根づいています。この組合の一番の強みは「新卒の離職率ゼロ」「みんなが辞めずに長く働くこと」です。その背景には、歴史が育てたこの組合ならではの雰囲気があります。
「もともと利益が一番というギスギスした組織ではなかったので、職員同士で競い合う意識が強すぎませんでした。だから昔から、自然と和やかな雰囲気ができていました。それがいまの『働きやすさ』や『辞める人の少なさ』につながっているのだと思います」
さらに近年は、この働きやすい環境に「未来へのワクワク感」が加わりました。
「昔に比べて、いまは職員が組織の未来に『夢』を見られるようになってきたと感じます。新ブランド『でしこ』を立ち上げたり、組合として社屋・加工場の建て替え計画(浜プラン)を進めたり。これまでになかった新しい試みが、次々と起きています。それを職員自身が身近に感じ、自分の将来にはっきりとした希望を描けるようになってきました。これが、組織の大きな活力になっています」
第3章 「産地消滅の危機」から生まれた新ブランド『でしこ』。伝統を守るための「進化」
組合が挑む「新しい試み」の一番の代表が、新ブランドうなぎ「でしこ」です。組合の運命を懸けて発表され、クラウドファンディング(ネットで応援のお金を集める仕組み)のサイト『Makuake』で、うなぎ部門日本一の支援額を記録しました。このプロジェクトの裏には、産地が抱える切実な危機感がありました。
「かつて浜名湖には、最盛期で400軒以上の養鰻家がいて、生産量は日本一でした。しかし、いまは27軒にまで激減しています。10分の1以下になってしまった生産者を、私たちが何としても守らなければなりません。『浜名湖のうなぎを絶やしてはいけない』。この強い危機感と使命感が、新ブランドを立ち上げた一番の原動力でした」
「でしこ」という名前には、『伝統を守り、進化を続け、幸福を届ける』という組織の考え方が込められています。
「伝統を守るとは、生産者を守ること。そして、浜松・湖西をはじめとするこの浜名湖地域の『うなぎの食文化』を守ることです。けれど、ただ今のままを保つだけでは、変化の激しいこの時代に伝統を守り抜くことはできません。時代とともに進化する心を持っていなければ、伝統は途絶えてしまうのです」
「だから、新しい挑戦を恐れずに進化する。その先で、うなぎを通して『幸福を届ける』。食べてくださるお客様はもちろん、この地で100年以上うなぎを育ててきた地域の皆さんにも幸福を届ける。それが私たちの目指す姿です」
第4章 働く人が幸せでなければ、伝統は守れない。「浜プラン」が描く100年後の未来
新しいブランド戦略に加えて、組合はいま、組織の土台そのものを大きく生まれ変わらせる大きなプロジェクトも進めています。古くなった社屋・加工場の建て替えに合わせて始める「浜プラン」です。これは、うなぎに特化した観光スポットをつくる計画です。
「実は、日本でうなぎ養殖が始まった場所なのに、浜名湖には『うなぎに特化した観光スポット』と呼べるものが今はありません。組合の本部は、舞阪駅から徒歩12分というとても便利な場所にあります。この立地を活かしたいのです。古くなった社屋・加工場の建て替えに合わせて、新しい施設をただの事務所や工場ではなく、『うなぎの里』のように人が集まる場所にする。これは私個人の思いつきではなく、組合全体で進めると決めた『浜プラン』です」
こうした組織の進化の根っこには、組合が一番大切にしている考え方があります。それは「従業員の幸福」です。
「生産者が進化するように、組合も進化しなければなりません。けれど、そこで働く職員が幸せでなければ、会社として幸せではありませんし、伝統を守っていくことも絶対にできません。働く職員にどうやって幸せになってもらうか。それは私がいつも考え、一番心を砕いているテーマです」
近年は、手厚い賞与(ボーナス。基本は年2回ですが、近年は年3回)や、残業の少なさ、有休の取りやすさが整っています。こうした待遇は、組合の「従業員第一」という考え方が形になったものです。組織が従業員を大切にするからこそ、従業員も組織と浜名湖の未来のために全力をつくせる。ここには、そんな良い循環があります。
「100年前、浜名湖うなぎは国内のうなぎ産業を引っ張っていました。そしていまから100年後も、浜名湖が国内、さらには世界のうなぎ業界を引っ張る産地であり続けたい。そのために、いまできることを一つずつ、着実にやり切る決意です」
第5章 未来の仲間へ。多種多様な個性が輝く舞台で、一緒に「浜名湖の夢」を見よう
125年の歴史を背負いながら、六次産業化の最前線で新しい挑戦を続ける浜名湖養魚漁業協同組合。組織はいままさに、二度目の創業期とも呼べる、大きく変わる時を迎えています。インタビューの最後に、これから組合の門を叩こうとしている未来の仲間たちへ、小川統括本部長からの熱いメッセージです。
「この組合には、本当にいろいろな仕事があります。頭を使って企画や戦略を練るのが得意な人の仕事。体を動かして現場を支えるのが好きな人の仕事。直売所などでお客様と接するのが好きな人の仕事。どんな個性を持った方でも、必ず自分に合った、活躍できる場所がここにあります」
未経験からでも安心して成長できる温かい雰囲気と、世界を見すえた大きな事業展開。
「浜名湖のうなぎは、これからますます発展し、世界を引っ張る産地になると私は確信しています。その目標を実現するには、これまでの常識にとらわれない、皆さんの『新しいアイデア』と『若い力』がどうしても必要です。ぜひ、この組合に飛び込んできてください。そして、私たちと一緒に働いて、一緒に大きな夢を見ましょう」
産地を守り抜き、伝統を進化させ、働く人の幸せを第一に考える。それは一人の信念にとどまらず、浜名湖養魚漁業協同組合が組織として受け継いできた姿勢です。伝統と新しい挑戦が交わるこの場所で、あなたも「浜名湖の次の100年」を創る一員になってみませんか。