浜名湖は、日本でうなぎの養殖(うなぎを育てる仕事)が始まった場所として、125年以上の歴史を刻んできました。近年では、その集大成とも言える新ブランドうなぎ「でしこ」が各方面で絶賛され、産地全体が新たな活気にあふれています。その極上のうなぎを育てる最前線が、浜名湖養魚漁業協同組合の「丸浜入七養鰻場」です。ここで毎日、泥くさくも生き生きと仕事に打ち込んでいるのが、22歳の若き養鰻スタッフ・T.さんです。
T.さんは水産高校の出身です。学校で学んだ知識を活かそうと、自分の意思でこの「養殖」の世界に飛び込みました。就職を機に地元を離れて一人暮らしを始め、大好きな生き物と向き合う日々を送っています。朝が早い環境のなかで、彼はどのように仕事の面白さを見つけ、プロの養鰻家(うなぎを育てる職人)への階段を登っているのでしょうか。今の若者らしいプライベートの過ごし方から、ひそかに抱く上司への強い尊敬の気持ち、そして家族を笑顔にする「漁協ならではのうれしい特権」まで、飾らない言葉でたっぷりと語ります。
第1章 生き物好きの少年が選んだ道。水産高校からプロの養鰻現場へ
T.さんの出発点は、幼い頃からの「生き物への強い好奇心」にあります。
「昔から魚や生き物がとにかく大好きでした。小学校、中学校の頃は親と一緒に釣りに行き、高校生になってからは毎週のように友達と釣りに出かけていましたね。だから将来は、絶対に生き物に関わる仕事がしたいと思っていたんです」。
その夢をかなえるため、T.さんは地元の水産高校に進学しました。水産高校といえば「漁業(船に乗って魚を獲る仕事)」をイメージする人も多いかもしれません。けれど、彼があえて選んだのは「養殖」の道でした。
「学校の授業でウナギを育てる実習があって、そこで養殖の面白さに触れました。学校で学んだ養殖の知識や経験を、社会に出てそのまま活かしたい。そう考えて、就職先には養殖場を選びました」。
入社にあたっては、実家を出て新しい土地で一人暮らしをするという大きな決断もありました。
「会社が私のアパートを探して手配してくれたので、スムーズに引っ越して、一人暮らしを始められました。生活の土台を支えてくれた会社には、とても感謝しています」。
こうして、生き物を愛する一人の青年は、浜名湖の伝統を背負う養鰻場に足を踏み入れたのです。
第2章 ウナギの群れと向き合う日々。一番の楽しみは「エサやり」の時間
丸浜入七養鰻場でのT.さんの1日は、朝のすがすがしい空気とともに始まります。
「朝は早いです。出勤したら、まずは池全体の様子を見て回ります。水車がちゃんと回っているか、異常がないかをしっかり確認してから、朝一番のエサやりをします。その後は、『沈殿槽』と呼ばれる、池のゴミがたまる場所の掃除をしたり、施設内の草刈りをしたり。もし設備が壊れていれば、その修理もします。お昼休憩をはさんで、午後も池の管理や作業を続け、夕方にまたエサをあげる。これが基本的な1日の流れです」。
T.さんは水産高校ですでにウナギの飼育を経験していました。だから、実際の現場は想像とのズレが少なく、スムーズに慣れることができたと言います。
「学校でウナギを育てていて、エサを練ったりする基礎はできていました。だから、就職してから『イメージと違った』と戸惑うことは、あまりありませんでしたね」。
そんな毎日の作業のなかで、彼が一番好きで、心が躍る瞬間があります。それが「エサやり」の時間です。
「やっぱり、エサをあげた時に、たくさんのウナギが一斉に集まってきて、勢いよく食べる姿を見ている時が一番好きですね。元気なウナギたちを見ていると、とてもいいなと感じます」。
そして、その毎日の積み重ねが、彼にとっての一番のやりがいにつながっていきます。
「毎日欠かさずエサをあげて、小さな稚魚だったウナギがだんだん大きくなり、ついに出荷の時を迎える。その立派に育った姿を見ると、『ああ、本当にいい商品になったな』と心の底からうれしく思えるんです」。
第3章 「池の管理だけじゃない」プロへの道と、尊敬する上司の背中
養鰻の仕事は、決して生き物にエサをあげるだけではありません。T.さんが語るように、草刈りや沈殿槽の掃除、水車の修理など、ウナギが健康に育つための「環境づくり」が仕事の大きな部分を占めています。では、そうした現場で「養鰻のプロ」とはどんな人を指すのでしょうか。T.さんは真剣な表情でこう答えてくれました。
「生き物相手の仕事なので、池の状況もウナギの様子も毎日少しずつ違います。プロというのは、そうした『ウナギの小さな変化』にいち早く気づき、毎日コツコツと地道な管理を続けられる人のことだと思います」。
さらに、求める人物についても、おもしろい見方を教えてくれました。
「現場では、池の管理に加えて『物を直す』作業がすごく多いんです。だから、自分で工夫して道具を作ったり、どうすれば効率よく作業できるかを自分で考えたりするのが好きな人には、すごく向いている仕事だと思いますね」。
そんなT.さんには、強く尊敬し、目標にしている人がいます。それは、自分も毎日現場に立ち続ける、小川統括本部長です。
「小川統括本部長のことは、本当にすごいと尊敬しています。毎日現場に出てきて、池の管理の基本をしっかりやってくださる。その上、本社の重要な仕事も同時にこなしている。ただ『池だけ』じゃない、その広い視野と圧倒的な行動力が本当にすごいなと。いつか自分も、少しでも近づいて、現場を任せてもらえるような存在になりたいです」。
上司の背中を見て育ち、自分の目標を高く持てる環境。これもまた、浜名湖養魚漁協が持つ見えない強みの一つです。
第4章 残業なしの17時退社でオフを満喫。ゲーム仲間に誇れる仕事
自然を相手にする第一次産業といえば、「休みがなく、朝から晩まで過酷な仕事が続く」というイメージを持たれがちです。しかし、T.さんの暮らし方は、そんな古いイメージを心地よく裏切ってくれます。
「大変なところを挙げるとすれば、やっぱり朝が早いことくらいですね。その分、基本的には17時頃にはきっちり仕事が終わるので、残業はほとんどありません。仕事が終わった後のプライベートの時間は、かなり充実しています」。
残業が少なく、仕事とプライベートの切り替えがはっきりしているので、彼は自分の趣味の時間を思いきり楽しんでいます。
「休みの日は、友達と夜遅くまでオンラインでゲームをして遊ぶことが多いですね。時には友達と静岡の市街地まで遊びに出かけたりもします」。
17時に退社し、夜は気の置けない仲間たちとゲームで盛り上がる。今の若者にとって、仕事の充実感と同じくらい大事な「プライベートの時間」が、この職場ではごく自然に手に入ります。T.さんは、水産高校の同級生など、周りに養殖の仕事に就いている友人も多いそうです。それでも、浜名湖の恵まれた労働環境と、ウナギという特別な生き物を扱う誇りは、彼に確かな自信を与えています。
第5章 土用の丑の日のウナギが家族を笑顔に。同世代に伝えたい養鰻の魅力
インタビューの最後に、これから社会に出ようとしている同世代の若者たちへ、養鰻という仕事の魅力を語ります。
「養鰻と聞くと、泥くさくて体力的に大変だ、というイメージがどうしても先に来てしまうかもしれません。でも実際にやってみると、それ以上に『ウナギが成長していく過程』を見守る楽しさがあります。立派に育てて出荷した時には、計り知れないやりがいと面白さもあります。その達成感を、ぜひ多くの人に知ってほしいなと思います」。
また、この会社で働く「とっておきの特権」についても、笑顔で教えてくれました。
「実は、夏の土用の丑の日などに、会社からウナギをもらえることがあるんです。ウナギは高級品なので、自分が育てに関わったウナギをもらって、それを親戚や家族に配ると、本当にすごく喜ばれるんですよね。みんなの喜ぶ顔が見られるのは、この仕事をしていて良かったなと心から思える、大きなポイントです」。
自分が手塩にかけて育てた最高級のうなぎが、大切な家族の食卓に並び、笑顔を生み出す。それは何物にも代えがたい、この仕事ならではの深い喜びです。ちなみに、「自分でウナギを食べるのは好きですか」と尋ねると、「もちろんです。就職してからウナギを食べる機会が増えましたが、やっぱりおいしいなと毎回思います」と、うれしそうに答えてくれました。
水産高校で学んだ知識を武器に、1,533万円の支援を集めた新ブランド「でしこ」の生産を根っこから支える若き職人。生き物への深い愛情と、毎日の小さな変化を見逃さない観察力を持つT.さんは、今日も水車の音とともに、浜名湖の伝統と未来を力強く育て続けています。
これから就職を考えているあなたへ。生き物が好きで、毎日コツコツ向き合うこと、自分で工夫して手を動かすことが好きなら、養鰻の現場はきっと面白く感じられるはずです。朝は早くても17時にはしっかり退社でき、オフの時間は自分の好きなことに打ち込めます。生活の立ち上げまで会社が支えてくれる環境で、稚魚から出荷までを見届ける本物のやりがいを、一緒に味わってみませんか。